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東京高等裁判所 平成2年(行コ)144号 判決

控訴人(原告) 安宅木材株式会社

被控訴人(被告) 日本橋税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  控訴人の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度分の法人税につき、被控訴人が昭和五八年六月二三日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、所得金額を二四億六〇九三万九三五七円として計算した額を超える部分を取り消す。

(三)  控訴人の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度分の還付金につき、被控訴人が昭和五八年六月二九日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、欠損金の額を五億九九一九万四一七三円として計算した額に満たない部分を取り消す。

(四)  控訴人の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度分の法人税につき、被控訴人が昭和五八年六月二九日付けでした更正処分(昭和五八年九月三〇日付けでした減額更正処分後のもの)及び過少申告加算税賦課決定処分(昭和五八年九月三〇日付けでした減額変更決定処分後のもの)のうち、所得金額を四億九八〇〇万八八五八円として計算した額を超える部分を取り消す。

(五)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決書一八枚目裏七、八行目「引き出せたり、」を「引き出したり、」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決書三一枚目裏初行の次に、行を改め、次のとおり付加する。

なお、控訴人は、ALH社の実質的業務がサービス業であることを強調して、ALH社のサービス内容が控訴人の指示に基づくことは当然であり、このような業務の遂行の実態からALH社の自己の業務に対する管理・支配を否定することは不当であると主張するようである。

なるほど、前掲甲第一号証によれば、控訴人の主張するサービスとは、前記認定のとおり、ALH社が、控訴人の南洋材の取引について、専ら控訴人がシッパーと交渉して取り決めた内容に従い、自らが右取引の形式上の買主となってシッパーとの間で売買契約を締結し、これに関する信用状の条件により必要とされる送り状、輸出許可状、原木明細書、船荷証券その他の関連書類にも買主としての名義を提供して、取引に必要な書類を整え、更に、控訴人の指示に従って代金支払のための信用状の決済を行い、控訴人とシッパーとの間で取り決められた差金については、その支払を留保しておき、後日、シッパーの要請に基づく控訴人の指示により、これをシッパーに交付し、また、シッパーに対する輸出前貸金融及び輸出関連中長期金融の便を供与することであることが認められないでもないが、同号証によれば、当事者は、ALH社が受けるべき手数料は随時見直し、再交渉を行うことができることになってはいるものの、ALC社は、かかった直接・間接経費を確かめるために、その正当に任命した代表者により、いつでも、又は常時ALH社の帳簿を調べることができるとされていることが明らかであり、また、控訴人主張の資本の論理からすれば、手数料の改定は容易ではないであろうから、結局、右認定事実からすれば、控訴人主張のALH社のサービス業なるものは、業として存在し得たとしても、ALH社が、その本店所在地国たる香港において独立した法人として、その事業を自ら管理、支配及び運営していたものとは到底いえず、むしろ、親会社たる控訴人がその本店所在地である我が国においてこれを実質的に管理、支配していたものといわざるを得ないのである。

また、ALH社の株主総会の開催が控訴人の本店所在地で行われ、ALH社の事務処理の方針を控訴人において最終的に決定していることのみをもって、ALH社が事業の管理・支配及び運営を自ら行っていないということはできないにしても、前記認定事実によれば、それだけでなく、ALH社の事業の実態をも併せて見れば、ALH社が事業の管理・支配及び運営を自ら行っていないことが明らかとなるのである。

更に、ALH社が控訴人の一〇〇パーセント出資による子会社であることから出資者たる控訴人とALH社との間に資本の論理が働き、控訴人が強力な発言権を行使し、ALH社に対し指揮、監督を行うことは充分考えられるところであるが、資本の論理も子会社としての独立性を否定しない限度に止まるべきものであって、その指揮、監督が事業の末端までに及ぶに至れば、ALH社の独立した企業としての実態を否定するに至ることは必定であるといわなければならない。

控訴人の主張は、いずれも採用できない。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口繁 根本眞 安齋隆)

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